クライアントさんが寒いなか大工さんとこつこつと作業していた千ヶ滝の納屋、なんとか年末に形になって使われ始めた。
大晦日に大工さんが建具を取り付けに行って、そのまま夜なべ仕事をしながら皆で年越しました!という連絡を受けた時は、ええ〜と驚いたが、誰もの心の奥にいる少年がそわそわするというか、夜を越してみたくなる「小屋」感があるのは確か。
幼稚園の頃、園庭に園長さんの弟さん手作りのおままごと小屋があって、そこで本当のお昼ごはんを食べたいと頼んで食べさせてもらった時はすごくわくわくした。そんな感じ。
ほぼ屋根、みたいな建物で、屋根に土を乗せて草屋根にする計画なのだが、寒くなりすぎて土は凍り、今のところ草一本生えない。草仕上げは、棟部分の処理を含めて来春の課題だ。
ドッグランの主であり、この納屋で子犬を出産予定のタマさん、すなわち真のクライアントさんにもおおむね好評のようで、年明けにお会いした際には上機嫌で迎えてくれた。
プロジェクトが始まった去年の初夏、材料は以前に店舗の装飾に使われた木材をもらってあるのでそれを使いたいというところから話がスタートした。再利用のために柱1本・板1枚ずつ表面を削る手間のかかる作業はクライアントさん自身が主に担って、希望通り使い切ることができた。
寸法のモジュールも小屋の高さも、その既存の材のサイズから取れる/取りやすい寸法を決めたので、内部には普通の建物よりだいぶ細かいピッチで柱や横架材が入って細かく分節され、頭上もぎりぎり。でもなんだかこれくらいの寸法の区切りや段差だったら何かと使える気がする、という見切り発車とアバウトな提案だったが、作る過程でクライアントさんと大工さんがあれこれ使い方を考えて手を加え、棚やベンチや作業カウンター、泊まり込み用の寝棚まで見事に使い切ってくれました。現場に行くたびに、「ここをこれにしようかななんて思ってるんですよ」という話が出てくるのがおもしろかったです。
納屋とはいえ、出産時期には子犬も親犬も人も泊りこむから、風雨をしのぐ以上のある程度の環境が必要だが、予算的には簡易で人力施工の小屋、材料も限られる。
プロジェクトの始めにベアドッグの習性から働き方など興味深くお聞きしたなかに、もともとは地面を掘った巣穴が好きで、小屋があってもその下を掘ってもぐってしまうのだという話が印象に残り、地面を掘り下げた竪穴式住居スタイルにすれば、犬も落ち着くし、暑さ寒さの温度変化も穴効果で多少マイルドになるのでは、ということになった。