日中はまだ蝉が鳴いたりする日もあるが、植物の様相はすっかり秋の気配で、あちこちで私の好きなハギが咲き始めている。
ようやくあまり身構えずに日中の運転や外出をできるようになって、人と顔をあわせるたびに、「この夏はほんと暑かったですね〜」と感想を述べあい、労わりあう毎日だ。
7月から8月の暑さも佳境の頃にかけての工期で、土蔵の改修の計画のお手伝いをした。今回は施工側からお声をかけていただいてのお手伝いだったのでご要望は伝え聞きになったが、敷地内にある土蔵を、お客を招いたときに泊まってもらうゲストルームに使うため、必要最小限の手を入れたいとのことだった。
現地調査に伺ったら、落ち着いた山すその里の集落の一角にある敷地で、土蔵は比較的状態も良く、助っ人を頼んだもう1人の設計士さんといい感じですね〜と盛り上がりながら、しかし汗と埃でドロドロになりながら実測。
比較的良いとはいえ、古さゆえの劣化もそれなりにあるなか、最小限の改修で、けれども泊まってもつらくない程度に、と考えながら案を作る。理想は今の基準に照らして全面の耐震補強をしたいところだが、コスト面からそこまではできないのは織り込み済みとのことなので、施工者と相談し、可能な範囲で対策をしながらの計画。
木製のガラス戸にはそれなりの隙間がある。サッシの入れかえは外壁の補修などコストがかかりすぎるし、樹脂のインナーサッシを内側に追加すれば確かに省コストで性能は上がるのだが、ゆらぎのある昔のガラスや丸みを帯びた木桟の質感がすっかり隠されてしまう。そこでガラス戸の内側には新しく太鼓貼りの障子(表裏共に紙を貼って空気層を作る障子)を入れて、今の雰囲気になじませつつ隙間風の防止と多少の断熱性能アップを図ることにした。天井も水回り以外は貼らないままにして、こうした手の入れ方で、どれくらい建物が変わるのかなと内心楽しみにしていた。
ひどい猛暑のなか工事をしていただき、できあがってみると工事の効果は予想以上だった。室内からは目に見えない床下や天井裏・屋根の劣化部分の補修をすることで、どことなく室内もかっちり固まった印象があり、なんだかすごく良く眠れそうで、私も泊まってみたい感じ。
同じ頃にまったく別件で、古い生家の改修についてご相談を受ける機会があり、その際にオーナーさんが「東京から子供や孫が遊びにきて、古い部分のお座敷に泊まるととってもよく眠れると言うんですよ」とおっしゃっていた。
ずっと人に使われて、人とともに時間を経てきた古い家屋には、数字に表せないあたたかさや安心感、気配の蓄積があって、そこに寝ころんでふあーっとなったときのリラックスは、どんなに綺麗に便利に作った豪華なホテルでもかなわないときがあるのではないかと思う。
そして新築の家でも、なにかしらそんな数字にも写真にも表れにくいくつろぎを感じられる空間をめざして設計したいと思っております。